【工業技術編】
解説
自動車のサービスマニュアルには装置の構造を説明する部分があります。まず、「この装置はA, B, C, Dの部品で構成されます」というような部品構成の説明があります。次にそれぞれの位置関係を示し、機能を解説しています。
この問題は部品構成を説明した部分です。comprises が使われていますが、consist of もよく出てきます。注意しなくてはいけないのが、英語では1つの部品だけでも consist of を使うことです。その場合、「構成される」に代わる訳語を考えなくてはいけません。文脈により異なりますが、例えば、「XXXは1個の○○○です」とか「XXXの中には○○○があります」などです。
この問題はイギリス英語で書かれた文章です。米英用語の相違リストを参照してください。centre、moulded でわかりますね。イギリス英語で書かれた文章には技術用語の点で特に注意が必要です。
前の問題と同様にステアリングの構成を述べています。steering wheel とはハンドルのことですが、サービスマニュアルではすでにステアリングホイールとカタカナで書くのが主流になっています。
hub とは円筒形状の部品(シリンダ、シャフトなど)の端面につけられた軸方向のでっぱりのことです。ハンドルには真ん中にクラクションなどがついた突起部がありますね。あれがハブです。
そうすると frame はなにを指し、frame の上に何が成形されているかがわかりますね。
cast ということばが出てきます。鋳造と辞書には載っていますが、鋳造ってどういうものでしょう。ことばをマッチングするだけでなく、内容もおおまかでよいですから理解しましょう。鋳造とは要するに鋳型を作って、溶かした金属を流し込んで成形する方法です。自動車部品の成形方法には他に鍛造 forging もよく出てきます。鍛造は工具、金型などを使い、金属を圧縮または打撃により成形する方法です。かじ屋さんのイメージですね。
金型は die または mold といいます。プラスチックやゴムの成形に使う金型は mold です。
金型を使って、金属などを打抜いて成形する方法がプレスです。日本語では機械も作業工程もプレスと呼びますが、英語では機械は press、工程は stampingと使い分けています。
この問題にある cast centre hub はセンタハブが鋳造で成形されていることを表しています。
このように、知識や資料を参考にしてイメージを浮かべながら翻訳することが大事です。技術に弱い翻訳者はこのイメージが乏しいため、必然的にことばに頼った翻訳になってしまうのです。
解答例
ステアリングホイールは鋳造製のセンタハブとフレームで構成されており、柔らかいポリウレタンフォームで覆われている。
技術翻訳のトランスワードが発行している書籍「技術を学ぶ翻訳者養成講座【工業技術編】」の一部を掲載しています。
技術翻訳を学ぶ人のための参考書販売サイト「翻訳参考書マーケット」で販売中です。