阿久根信之 著 「翻訳者日記」
2-2-4 他動詞と自動詞
ここ数年、メモリを使用する仕事がほとんどなので、メモリに含まれている他人の訳文を読む機会が飛躍的に増えました。従来は、英文の内容や意味に注意することが多かったのですが、最近は、ある日本語の表現がやたらと気になって仕方がありません。それは、漢字の二字熟語に「する」をつけて使用するサ変動詞です。日本語自体がかなり柔軟性に富み、「乱れ」としての捉え方と「変化」としての捉え方があるのかもしれませんが、どうも私は何回読んでも、「変じゃないかな」と思ってしまいます。

別に、サ変動詞すべてに対して疑問を感じているのではありません。他動詞、自動詞が区別なく使用されている和文に対してどうも納得がいかないのです。自動詞、他動詞は中学生の国語の授業で詳しく学習します。
「火をつける」、「火がつく」とは言いますが、「火がつける」、「火をつく」とは言いませんし、「…を燃やす」とは言っても、「…を燃える」とは言いませんよね。ところが、漢字の二字熟語になると、この区別が結構曖昧です。私が頻繁に目にする誤りは、「回転する」です。工業系ではよく使用する語で、とくに問題なさそうなのですが、この語が訳文の中で「ボルトを回転する」とか「ナットを回転する」というように使われているのです。
国語辞典で調べると、「回転」は「サ変自」つまり「サ変動詞で自動詞」と定義されています。ですから、「ボルトが回転する」という言い方はできても、「ボルトを回転する」という言い方は不自然です。何かを回すのなら、「…を回転させる」という言い方が正しい表現です。同様に、「作動」という語を辞典で調べると、「サ変自」と書かれています。「何かが作動する」のであって、「何かを作動する」のではないということになります。

ここに挙げた例はごく一部なのですが、実は、このように国語辞典の定義に従って翻訳をしていても、困ってしまう場合があります。それは、翻訳入力指示などで、「…を作動する」と訳すように指示される場合です。誤った使用例が定着してしまうことは、日本語ではよくあることなのかもしれませんが、少なくとも、話し言葉ではありませんし、自動詞、他動詞といった基本的な区別ぐらいはできたほうがよいような気がします。英語を学習するときには、自動詞と他動詞で文型が異なりますから、かなり注意しますよね。母国語での思わぬ落し穴といったところでしょうか。

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