一社からのみ仕事を受注している翻訳者はその会社のやり方が「普通」だと思ってしまいがちです。ところが、複数の翻訳会社から受注すると、料金の支払いもさまざまなのだと気づきます。たとえば、A 社の場合、月末までに終了した業務を当月分として請求し、請求書も Web 上で作成します。B 社は入金日の1、2週間ほど前に「入金予定のお知らせ」を送付してきます。この場合、請求書を作成する手間は省けます。C 社は作成済みの請求書を添付メールで翻訳者に送付し、捺印後に返送させるというシステムを採用しています。業務依頼書に基づいて、翻訳者が月末までに自前の請求書を作成して郵送するという会社もあります。
通常のお店では商品と引き換えにお金を払いますが、翻訳者は請求書を送ったからといって、即座に入金されるわけではありません。私の場合、最短でも、今月分の料金は翌々月の5日まで待たなければなりません。つまり30日以上あとの支払いです。家計や事務所の収支がうまくいくようになれば、このペースでも構わないのですが、前述のように、支払日も翻訳会社によってまちまちです。
最長の場合、今月分の料金は翌々々月の末日、つまり、90日後の支払いとなります。前月分が「最短」で支払う会社の業務で、今月が「最長」で支払う会社の業務だったら、まったく収入のない状態がまる2カ月できることになります。給与所得者でいえば、某月の給料日がなくなったようなものです。十分な預金がないと、扶養家族のいる翻訳者には辛いことになります。
毎月給料日がある会社員や公務員の人たちが羨ましくなることもありますが、会社員も公務員も経て自営業に至ったわけですから、不平を言っても仕方ないことはわかっています。景気も回復基調とのことですから、上手にやりくりしないといけません。ただ、これから翻訳で生計を立てようと思っている人は、3カ月分の生活資金は確保してから脱サラしたほうが無難かもしれません。
技術翻訳のトランスワードが発行している書籍「阿久根信之 著 「翻訳者日記」」の一部を掲載しています。
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